蒼月光
「・・・どうして・・・」
思い出されるのは今日死んだ友人の事。
彼は盲目の妹の為に、とある研究所へと忍び込んだ。開発中の薬を盗み出すために。
雪乃がその研究所へと行った時、彼は半分以上化け物の餌食となっていた。
彼の足は喰われ、もうないと言うのに、その事に気付かないのか彼の腕は前へ進もうと宙をかいていた。
必死になって。
「もう、走らなくても大丈夫ですよ」
化け物を倒し研究所を脱出しても、まだ雪乃の腕の中で走り続けていた彼にそっと声をかけると、
彼はうわごとのように言った。
「早く行かなくちゃいけないんだ、妹の元に。もう真っ暗になってしまったし、
これ以上あの子を一人にしておけないんだ。今日はやけに寒いし風邪を引いているかもしれない」
そして、彼は夕日に照らされながら息を引き取った。血の気の引いた真っ青な顔で。
「時雨・・・さん」
月を見やり、雪乃は友人の名を呟いた。
と、同時にこらえ切れなくなったかのように涙が頬をつたっていった。
「どうして・・・泣いているのだろう」
彼女には分からなかった。己が泣いている理由が。しかし涙は止まらない。
「どうして胸が痛いんだろう」
どうしたら良いのか分からない程に悲しくて、苦しくて・・・
こんな感情を彼女は知らなかった。
でも、一つだけ分かる事は・・・・・・
「・・・私にはこんな感情いらない・・・」